悪運探偵の最期(あるいは銃火器戦闘描写)

モクジ
その廃工場に響き渡る乾いた連続音は。

ツカタタタタタタタタタタ!


そう、最高にクールさ。ウィリアム・ゴールドスミスの16ビートドラムロール!


‥‥なんてものではない。
アルミ製小型アサルトライフルのオートマ連射だ、冗談じゃねえ。
命令に忠実なヘビのように、奴の放った弾痕が俺の影を追いかけ、地を這う。
「あ―――」
(当たりゃしねぇよっ)
そう煽り文句を言ってやりたかったが、悠長に息を吐き出せる余裕もない。といって、吸う暇すらありゃしない。
「っ―――! 」
命がけの無呼吸全力疾走。まるで素潜りだ。こうなるならカッコだけつけて煙草なんて吸うんじゃなかった、まさか浮気調査と猫探し以外仕事の舞い込むことのなかった俺の事務所に、こんなやばいヤマが持ち込まれるなんて。
走り、転がり、這って、反転し、飛び越え、くぐり、すべりこみ。
そして、隠れ……隠れられた! 
静寂があたりを支配する。奴も耳を澄まし、かすかな音も聞き逃すまいと集中しているはず。ようし、ここからが勝負だ。

カラン、ガシッ! ジャキン

乾いた音が響いてくる。
なぁんだ、悠然と弾倉交換しただけですか、カンベンしてくれ……。そりゃあ火力の差は圧倒的だ、奴にとっちゃただのハンティングってことかよ。
錆びた鋼板の影で、場所をさとられぬよう息を殺しながら、俺は左脇のホルダーからようやく相棒の短銃、シグ・ザウエルを抜いた。
(なめやがって……。見てろよ。ん?)
違和感。いやーな違和感。
(なんか、相棒、よ。軽く……ねえか?)
おそるおそる目を落とす。なんてこった。
やっぱりだ、カートリッジが、入ってない。ああ、最近ハッタリにしか使わなかったよな、そういえば。重いと肩こるしさ。あは、あはは……。
だめだこりゃ。
俺は銃をなげやりに、後ろ手に放り投げた。奴の後頭部に直撃とか、してくれねえかな。くれないよなぁ。そんな都合よくいかないよな、やっぱり。

ザシャッ

ほーらね、見事地面に着地しやがった。
(ゲーム・オーバー。 ……俺、死んだ。)
バイバイ親父。バイバイお袋。バイバイ、キャバクラ・ミナミのレイコちゃん。結局プラダのバッグ、買ってあげられなくてごめ…
 
ツカタタタ
ドッゴォン!

地響きと轟音、そして熱風、すさまじく黒い煙が俺の視界を奪う。
「うわ熱っ!」
なんだナンダなんだナンダあ? なんだこれは。携行型グレネード? 
どーせ死ぬんなら焼死体はいやだ、俺ぁ逃げるぜ、見つかったってかまうか! 
考えるより先に、俺は一番近いトタンの工場外壁の隙間へ突進、這い出し、走っていた。
50m程度だったろうか。でも三分間ぐらい夢中で走っていたような気がする。


振り向くと、工場は黒い油煙を上げるドでかいキャンプファイアーになっていた。
おそらく銃の着地音を俺の足音と勘違いした奴の水平掃射が、廃油の詰まったドラム缶にヒットしたのだ。今頃は奴もバーベキューだろう。
「た、助かったあ……」
脱力。しかしへたりこんでる暇はない。おまわりだの消防だの来る前に逃げねえと面倒だ。
早足で俺は歩き出す。

「うーん…いやしかしやっぱ、プラダは高ぇわ、うん。」
モクジ
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